REPORT

新たな扉が開かれる、濃密な90分

オフィシャルライターの高城つかさによる配信観劇レポート

2020.7.21


6月28日(日)、YouTube Liveにて「パントマイム<配信>ライブ」が開催されました。
 
⼀般社団法⼈⽇本パントマイム協会主催の本ライブ。ライブ配信拡張機能「Doneru(どねる)」が運営サポートとして参画し、投げ銭制の完全無料ライブに、最高同時視聴数133人を記録、投げ銭額は50,000円以上が集まり、国内だけではなく、海外の視聴者がコメントにて参加しました。
 
今回は、ライターとして演劇レポートを書きながらも、恥ずかしながらパントマイムは初見の高城(たき)つかさが当日の様子をレポート。あっという間に過ぎた90分のあいだに、自分のなかのパントマイムへの印象が大きく変わったことを感じられました。
 
レポートを読んで気になった方は、期間限定でアーカイブ公開されている「パントマイム〈配信〉ライブ」をご覧ください(アーカイブは30日(木)23時59分まで無料配信)。
 


  これまで仕事、プライベート問わず演劇に触れてきた筆者。ですが、そもそもパントマイムに対して誤った認識を持っていました。それは、パントマイムが“演劇”ではなく“ダンス”なのだということ。今回、ライブ配信を観るにあたり調べてみて、パントマイムは“黙劇”とも表現される、演劇の一種なのだと知り、驚きました。 

基本的にはセリフを用いず、身体の動きや表情で状況や心境を表現するのがパントマイムなのだそう。DVDや配信など、演劇を映像で観ることはあっても、パントマイムのパフォーマンスは直接観たことすらなかったので、どのように表現されるのか、とても気になりました。  

開演時間になると、北 京一さん、羽鳥尚代さん、小島屋万助さんの3名が登場。これまでパントマイムを見たことがない視聴者にも向けて、まずは種類から説明しました。 

パントマイムと聞くと、ピエロのような格好をした人が、黙って身体をきびきびと動かしながらパフォーマンスをするものだと思い浮かべがち。筆者もそのひとりでした。ですが、それはあくまで基本の型とのこと。お芝居をしたり、喋ったりする人もいると聞き、驚きました。

  冒頭から45名ほどが閲覧しているなか、投稿されたコメントを活用しながらトークを展開していくパフォーマーたち。観客とパフォーマーの距離が縮まってきたら、投げ銭の仕組みも解説。「やらしい話ですけどね」と笑いを誘っている姿を見て、皆さんのあたたかさを感じました。

  はじめのパフォーマンスは、江ノ上陽一さん。「はじまるよー!ミュージックスタート!」と画面に向かい一言告げて、The Mad Capsule MarketsのGood Girlに合わせて踊り始めます。よく知っている音楽だからこそ、ノリノリで物語の世界に入り込めました。

 閉じ込められたひとりの人間が、どのように脱出するのかを描く、このステージ。終盤にはメッセージボードを使い、客席に問いかけるシーンもありました。

 冒頭で触れた通り、パントマイムがどのようなものなのか、さわりだけしか知らなかった著者。ですが、音楽や照明の力もあいまって、こんなにも動きや表情でどこにいるのか、何が起こっているのか、どのように感じているのかが伝わるのかと、感動しました。演劇を観ているとき、脚本をとくに意識してしまう著者にとって、“セリフのない演劇”の魅力を知れた演目でした。

  続いては、山本光洋さんによる『チャーリー山本』。あやつり人形・チャーリー山本の物語を演じます。まるで本当に糸でぶら下げられているような彼。指先から足まで、操られているような動きに目を奪われました。

 刀を持とうとしてもなかなか持てなかったり、誤って糸を切ってしまったり……。さまざまなハプニングがあるけれど、最後にチャーリー山本の決めポーズをすれば、大丈夫。実際にコメントを拾いながら進めていくパフォーマンスは、オンラインならではだと感じられました。

 ひとつ驚いたのが、セリフを加えることによって、ただ観客が“受け身”になるのではなく、双方でコミュニケーションをとっている気持ちになれること。チャーリー山本の「みなさまこんにちは、元気でございますか?」の声がけに「こんにちは、元気です!」と返したくなるような、「頑張れ、チャーリー山本!」のひと言に「頑張れ!」と言いたくなるような。セリフが加えられることによって、状況がわかりやすく伝わるので、パントマイムの動きに集中できましたし、よりパントマイムの世界に踏み込みやすくなった演目だったと感じます。

  北 京一さんの演目は『手品師』『おねしょ』の2つ。手品がうまく進められない手品師をチャーミングに演じた一方で、『おねしょ』では、照明を使いながら夜から朝にかけて1日を伝えていきます。

 この演目では、音楽・照明の力をうまく活用することで生まれる、“セリフのない”状況下での説明力を感じました。朝なのか、夜なのか。喜んでいるのか、驚いているのか。身体や表情で魅せつつ、音楽や照明を活用しながら、ひとつひとつ伝えていく。伝えたいことが、そこにはある。パントマイムは、表現のひとつなのだ、と。 

 『チャーリー山本』ではセリフを口にしながらパントマイムを行った山本光洋さん。続いての『愛の讃歌』では喋らずにスタート! 途中からはエディット・ピアフの『愛の讃歌』を歌い、女の人をエスコートする姿を演じました。

 女性役は、なんと風船。一切言葉を発さない相手だけれど、指先の動きや視線を通して彼女の気持ちが伝わりました。手と手がつながれたふたりの、愛の物語。クスッと笑ってしまう場面もあり、物語にのめり込むことができました。

  小島屋万助の演目『抜けた男』では、はじめに、アコーディオンの音にあわせてポップな格好で羽鳥尚代が登場。遅れて小島屋万助が現れました。道路の信号待ちのシーンでしょうか。音や照明の動きで視聴者が推測している間に、物語が展開されていきます。

 パントマイムには、大きなセットがありません。何ひとつ持っていないにもかかわらず、仕草や表情で、何をしているのか・何を持っているのかがわかるパフォーマンス。タバコを吸ったり、お手洗いに行ったりしている間に身体のあらゆるところから空気が抜け、栓をしてまた次の場所へ行く……。抜ける空気とともに日常を歩んでいく彼の行き先が気になりました。

  視聴者数は282名を記録し、なかでも最高同時視聴数は135人と、多くの人々が画面の向こう側で行われるパフォーマンスに夢中になったことが感じられました。さらに、無料配信にもかかわらず、投げ銭額は50,000円以上。地方だけでなく、海外からもコメントが集まり、コメントを通して交流が生まれたのは、オンラインの魅力なのではないでしょうか。

 今回、セリフをいれずに動作や表情で表現するいわゆる王道の型のほかにも、セリフがあったり歌ったりする演目があったので、もともとパントマイムを知っている人でも知らない人でも入りやすいライブになったのではないかと感じています。

  個人的には、セリフを発さないこと、つまり、言葉にしないことに意味があるとも思いつつ、演目ごとにアフタートークがあったからこそ、どのような作品なのか、どのようなストーリーなのかをパフォーマーの視点から語っていただけたら見返したときにも楽しめるのかもしれない、と思いました。残したアーカイブの新たな楽しみ方にも繋がるのではないかと感じます。

 前提として、きっと、私のようにパントマイムのことを“ダンス”の一種だと、セリフは入れないものだと感じている人もいるはず。配信で多くの人に観てもらう機会があるならば「これが“パントマイム”なのか」と知るきっかけを与えたり、もう一歩踏み込んで、どのようなストーリーを、どのような動きで伝えているのか、理解できたりする機会があれば嬉しいです。そうすることで、より世界は広がると思ったのです。 

パントマイムは“演劇”であること、パントマイムにもさまざまな種類があること、音楽や照明の力を最大限に引き出せるものであること……オンラインの配信でも、これだけの発見があった今回のライブ。これを機に、私のようにまだパントマイムの魅力を知らないであろう多くの人々が新たな扉を開けることを、願います。  


 オフィシャルコメント

開催前には、⼀般社団法⼈⽇本パントマイム協会の江ノ上陽一さんへのオフィシャルインタビューを行いました。パントマイム協会の活動や、無料配信に踏み切った想いが語られています。

ー パントマイム協会では普段どのようなことをやっていますか?

パントマイム協会では、パントマイムの普及、発展の為の活動を行っています。それは、舞台活動はもちろん、教育活動、そして人材育成も含まれています。本協会はパントマイミスト、パントマイムにかかわるアーティスト、スタッフ等の交流のサポートもしています。昨年は渋谷区の協力を得て、発足記念公演を全国のパントマイミストにて開催し、海外パントマイミストの出演も実現いたしました。

ー なぜ観劇料をとらずに、投げ銭が可能な形にしたのか教えてください。

ライブ配信に関しては初めてということもあり、有料で配信し、何か不具合があった場合、責任が取れるのかどうか……ここが一番の懸念点でした。そういったことも含め、今回は無料配信とし、投げ銭という形を取りました。本来、無料でパフォーマンスを見せるということは、やってはいけないことだと思っています。そのため、新たな形を模索できたらと思います。

ー ライブ配信にすることで、どのような魅力を届けられると思いますか?

ここは本番をやってみなければなんともお答えするのが難しいのですが、舞台と同じように演者の「熱」と観客の「熱」の交換が実現出来ればと思っています。しかし、同じ「熱」でもライブ配信では違う交換となるのでは無いかと、期待をしています。どのように進むのか、楽しみです。



 

 
パントマイム《配信》ライブ 
2020年6月28日(日)19:00 開催
 
アーカイブは2020年7月30日(木)23:59 まで限定公開!

https://www.youtube.com/channel/UCgaljB_F8GzvVjxVL-9JaYA
 
▼上演作品
1.『The Pantomime Show』江ノ上陽一
2.『チャーリー山本』山本光洋
3.『手品師』『おねしょ』北 京一
4.『愛の讃歌』山本光洋
5.『抜けた男』小島屋万助劇場
 
 
問合せ 

一般社団法人 日本パントマイム協会

〒111-0042 東京都台東区寿2−5−12 加瀬ビル4F 

Tel : 03-3845-9433

Mail : japan.pantomime.association@gmail.com